2011.5.11 13:48
筋肉が衰える遺伝性の難病、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因となる遺伝子異常を読み飛ばし、筋肉の修復を促す分子化合物を、京都大大学院医学研究科の萩原正敏教授と神戸学院大総合リハビリテーション学部の松尾雅文教授が共同研究で発見し、日本時間11日付の英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」(電子版)に発表した。
薬物治療につながる成果で、萩原教授は「臨床研究の形であっても、数年以内に患者に投与できれば」と話している。
同病の原因は、筋肉に必要なジストロフィン遺伝子の機能不全。アミノ酸の配列を決める「エクソン」と呼ばれる部分の突然変異で遺伝子の読み取りがうまくできなくなり、筋肉が次第に失われるとされる。
萩原教授らは、神戸大病院で治療を受けている5歳の男児から細胞を採取。分子量が少ない低分子化合物のリン酸化酵素阻害剤を注入したところ、突然変異したエクソンを読み飛ばし、ジストロフィンを生成させることに成功したという。
萩原教授は「遺伝病に薬物治療ができる可能性がでてきたが、薬剤につなげるためには製薬企業の資金力が必要になる」と話している。
産經新聞
筋ジストロフィーに対する新しい低分子治療薬候補物質を発見
2011年5月11日
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)*は進行性の筋萎縮を呈し、患者はほぼ20歳代に死亡する極めて重篤な遺伝病である。その原因はジストロフィン遺伝子*の異常により、骨格筋でジストロフィンが欠損するためで、現在DMDに対する有効な治療法はない。
今回、萩原正敏 医学研究科教授の研究グループは、松尾雅文 神戸学院大学教授らとの共同研究で、ジストロフィン遺伝子のエクソンスキッピングを誘導する低分子化合物を世界で初めて発見した。この成果は、DMDに対するエクソンスキッピング誘導治療*を低分子化合物により可能とする、全く新しいしかも臨床応用性が極めて高い治療法の確立に大きく貢献するものである。
本研究成果は、Nature Communications 誌5月10日号(米国東部標準時間)に「Chemical treatment enhances skipping of a mutated exon in the dystrophin gene」と題して掲載された。
研究の概要
Duchenne型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、幼児期に筋力低下で発症し、その後一貫して筋萎縮の進行する極めて重篤な遺伝性筋疾患である。現在その有効な治療法がなく、多くの患者は20歳代に心不全あるいは呼吸不全により死に至る。DMDはジストロフィン遺伝子の異常により骨格筋でジストロフィンが欠損するために発症する。一日も早い治療を待つ患者には応用される薬剤の開発が望まれ、低分子化合物によるエクソンスキップ誘導は世界から大きく期待されている。そのため、本研究ではある患者が有するナンセンス変異に対し、エクソンスキッピングを誘導する低分子化合物のスクリーニングを行った。まず変異を持つジストロフィン遺伝子のエクソンおよび周辺イントロンをスプライシング解析用のベクターに挿入し、ハイブリッドミニ遺伝子プラスミドを構築した。次にこのプラスミドをHeLa細胞へ遺伝子導入し、候補となる化合物の存在下で24時間培養を行い、得られたmRNAをRT-PCRにより解析した。この解析の結果サイズの異なるmRNAを増幅産物が得られると、その化合物がエクソンスキッピング誘導能を有する可能性がある。このようなスクリーニングを行った結果、リン酸化酵素阻害作用を有する低分子化合物のTG003が、ジストロフィン遺伝子のC.4303G>Tというナンセンス変異が存在するエクソン31のスキッピングを増幅することが明らかとなった。この変異を持つ患者から樹立した筋培養細胞にTG003を導入したところ、エクソンスキッピングの亢進とジストロフィンタンパク質の発現促進を確認した。この結果は、DMDに対する低分子化合物によるエククソンスキッピング誘導治療に道を開く世界で初めての成果であった。
※用語解説
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)
DMDは、男児3500人に1人が発症する最も頻度の高い伴性劣性遺伝性疾患である。DMDは幼児期に筋力低下を示し始め、年令が長ずるに従い一貫して筋萎縮が進行し、20歳代に心不全・呼吸不全で死亡する極めて重篤な疾患である。DMDの診断は、血液化学検査で著明なクレアチンキナーゼ値の上昇から、乳児期の何も筋力低下症状のない時期でも可能となっている。この発症前に治療ができれば、その効果は極めて大きいものと期待される。
ジストロフィン遺伝子
DMDの責任遺伝子であるジストロフィン遺伝子はヒト最大の遺伝子で、79ヶのエクソンから成っている。エクソンは実際にアミノ酸の配列を指令する情報を書き込んだ配列のことで、エクソンはイントロンという介在配列を有している。遺伝子が働くとき、まず遺伝子が転写されてmRNA前駆体が産生される。このmRNA前駆体はスプライシングを受けてイントロンが切り取られ、エクソン配列のみからなるmRNAとなる。mRNAは、翻訳されてタンパクを産生する。DMD患者の遺伝子診断では、エクソン単位の欠失が最も多くみられる。
エクソンスキッピング誘導治療
ジストロフィン遺伝子のエクソン単位の欠失異常により発症したDMDでは、ジストロフィンmRNA上のアミノ酸読み取り枠がアウトオブフレームになっている。エクソンスキッピング誘導治療は、この異常に対し、アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて欠失に隣接するエクソンのスキッピングを誘導して、エクソンの配列をmRNAから取り除き、アミノ酸読み取り枠をインフレームにかえ、サイズの小さなジストロフィンを発現させようとするものである。
京都大学
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